動的平衡

著者:福岡伸一

 前置き:

現代文で学ぶことは大きく分けて二つ。二項対立(論理構造)と、抽象的思考と具体例の識別です。この技術を使って文章を要約できさえすれば、人生に必要な国語力は十分です。

 現代文では今と昔、日本と海外、一般論と筆者の持論というように、対比軸をもって物事を論じています。これを二項対立といい、何と何を対比しているのか、筆者の意見の根拠は何か、論理構造を考えることが大事です。

 また、筆者は抽象的な持論を持っており、その持論を具体例で補強しています。筆者は結局何が言いたいのか。抽象的思考と具体例を識別できるようになりましょう。

 さて、今回の「動的平衡」では対比を用いて、既存の価値観の再考を試みています。どのような点で既存の考えと異なるのかを考えながら読んでいきましょう。

要約文:

第一段落: 生命とは何か。長い間、生命とは臓器や手足など、パーツの集合体であり、それは交換可能なものだと考えられていた。

  対比: 異なる生命の定義があるのではないだろうか。

 具体例: この考え方はデカルトの唯物論の思想からきている。デカルトは生命をパーツの塊であり、生命活動は機械の部品の動きのように説明可能であると主張した。その流れを組み、ES細胞や臓器の売買、遺伝子操作などの生命に関する科学技術が発展した。これらは全て「生命のパーツは取り替え可能である」という思想で共通している。

🐿の補足: ES細胞がこの世に出て久しいです。万能細胞があれば臓器の移植の可能性は広がります。いろんな人が助かります。古くなって使えなくなったら新しいパーツに取り替えよう。この考え方は数百年前の哲学者の思想からきていたのです。


第二段落: 生命の定義を新しく考えたい。生命とは「絶え間なく分解、再構築を繰り返す流れそのもの」である。(動的な平衡と名付けたい)

  対比: 第一段落の定義と対比

 具体例: 筆者はルドルフ・シェーンハイマーのマウスの実験を紹介している。ルドルフはマウスにある特殊なアミノ酸を餌として与え、アミノ酸がマウスの体内をどのように駆け巡るかについて追跡実験を行った。彼は当初アミノ酸は数日で糞となり、体から排斥されると仮説を立てていたが、結果は違った。アミノ酸は全身を駆け巡り、臓器や血液などあらゆる臓器を構成する一部となっていた。生命は常に動的に、変化し続けていることがこの実験からわかった。


第三段落: 現在は第一段落で述べた生命の考え方が主流だが、それには限界がきているのではないか。生命は常に循環し続けている。その中から一部だけパーツを取り替えてネットワークを乱すことは、生命の流れに負荷を与え失敗につながるのではないか。

 具体例: 遺伝子組み替え作物は思ったほど作物の増加には繋がらなかった。臓器の取り替えでは拒絶反応が起き、ES細胞はコントロールが難しい。クローン羊は早死にした。生命のパーツは取り替え可能だという思想には限界があるのである。


どんな話か理解できたでしょうか?

 科学と哲学は密接な関係を築いています。新しい技術も考え方自体は古い哲学思想を受け継いでいるのです。哲学だけを学んでも人の傷を癒すことはできません。しかし思想を学ぶことで新たなきっかけを見つけることができるかもしれません。

動的平衡” に対して1件のコメントがあります。

  1. りす より:

    授業案:
    遺伝子組み換え、ES細胞、臓器移植、クローンのうち、どれか一つ選択し、それらを使った現代の技術について発表せよ。応用例とその問題点を含むこと。

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