いのちのかたち

著者:西谷修

 前置き:

現代文で学ぶことは大きく分けて二つ。二項対立(論理構造)と、抽象的思考と具体例の識別です。この技術を使って文章を要約できさえすれば、人生に必要な国語力は十分です。

 現代文では今と昔、日本と海外、一般論と筆者の持論というように、対比軸をもって物事を論じています。これを二項対立といい、何と何を対比しているのか、筆者の意見の根拠は何か、論理構造を考えることが大事です。

 また、筆者は抽象的な持論を持っており、その持論を具体例で補強しています。筆者は結局何が言いたいのか。抽象的思考と具体例を識別できるようになりましょう。

 さて、今回の文章は、「いのち」と「生命」という二つの言葉の違いについて、細かく細かく論じています。何が違うのか、そしてその違いを使って何が言いたいのか。対比を軸に読んでいきましょう。

要約文:

第一段落: 英語のライフを日本語に訳す時、文脈によって様々な言葉に変わることがわかる。いっそのこと、ライフ=生命と定め、日本の近代標準語を作っても問題ないのではないか。

 具体例: 「一生、生涯、人生、生活、暮らし、なま、現物、生き物、寿命、いのち」 これらの言葉を全て「生命」に置き換えても、案外問題ないのではないか?

🐿の補足: 本文中でも述べられていますが、言葉を標準化して国際標準を作ろうという考えは新しいものではありません。明治維新で英語を公用語にすれば世界と同じスピードで物事を学ぶことができ、日本の進歩は著しいだろう。そんな案もあったのですが、結果は今の通り。当時の文化人は学術的な英語の語彙を、漢字を組み合わせることで日本語の語彙に作り変える道を選びました。おかげで大学で学ぶような深く難解な分野でも、自国の言葉で学べるというわけです。インドでは自国の言葉に学術で使える語彙がないので、英語ができないと大学で学べないそうです。どちらも一長一短ですね。


第二段落: だが、「生命」と「いのち」はやはり違うと、日本語の話者は感じてしまう。

  対比: 「生命」と「いのち」の違い

 具体例: 身体とからだの違いも似たようなものだ。「身体」は死体や、機械や道具などの作り物を表すのに使われても違和感はない。対して「からだ」はどこか暖かかったり艶かしい印象を与える。

 「生命」と「いのち」も同じである。「生命」は生命現象などのように観察や研究の対象、つまり科学の印象を受ける。一方で「いのち」は身近で日常感覚と共にある。自分の死は自分と身近な人だけのものであり、DNAや遺伝子の研究のような「生命」とは程遠い。生命が人間全体を科学するものだとすると、いのちは一人一人個別的な印象を与えるのだ。

🐿の補足: 「生命」を意のままに操れる時代がやってきましたね。脳死状態でも人は生きてるし、安楽死が合法の国もある。遺伝子操作を経て誕生するデザイナーベイビーにクローン人間。これらは科学の発展により生まれた「生命」です。これらは自分自身の「いのち」とは結びつかないのではないでしょうか。やはり「生命」と「いのち」を同じ言葉でくくってしまうのは無茶なのです。


第三段落: 医療の現場では「生命」と「いのち」のギャップがせめぎ合う。医療の現場では「生命」という科学に沿って研究しなければならないが、相手にするのは一人一人の「いのち」である。しかしこのギャップから生まれる問いを与えられたのは、進化を急ぎすぎる人間にとって幸せなことかもしれない。

🐿の補足: 「中国の漢方薬の発展は究極の帰納法」と、とある作家が述べました。帰納法とは決まった仮説を持たず、現実を繰り返し繰り返し観察し、そこから共通点やルールを見つけるやり方です。つまり、誰かが飢餓状態になった時、もしくは死にそうになった時、その辺にある草を毒か薬か誰もわからない状態でそれを食べた。生き残ったらそれは薬。死んだら毒。そうやって実験を繰り返して発展させたそうです。実際に死にかけた人が回復したので効き目は保証されており、強い説得力を持ちます。現代の感覚で言えばすごい話ですが、これも典型的な科学です。そのように試し続ければ、まあ、科学は発展するでしょう。

しかし、医療の現場でそんなことするわけにはいきません。患者さん一人一人にいのちがあり、大事に思う家族や友人がいて、一人のかけがえのない人生を生きている。「生命」だけを考えては医療はやっていけないというわけです。

こう読むと大変ですが、別の視点から考えると「考える時間」ができてよかったのではないか?と筆者は述べています。人間はすぐに目先の利に走る生き物ですから、こうやって迷うくらいがちょうどいいのかもしれません。


どんな話か理解できたでしょうか。

この話は割と要約が難しかったです。流れを重要視して概要だけ拾いましたが、本文を読み直せばもっと深いこと書いてあります。大人になってから生命を真面目に考えるのは当事者になってから。(つまり妊娠や自分の終末期など)。中高生のうちに真面目に考えておくのも悪くないですね。

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いのちのかたち” に対して1件のコメントがあります。

  1. shimarisu より:

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    ・医療体制(医者という職業は「男性じゃないと離職を招く」ほど激務なのか)
    ・保険制度の危機(アメリカと日本の保険制度について比べよ)
    ・医師不足(地方の医師不足が起きる問題とは?)
    ・訴訟問題(どんな医者がなぜ訴えられるのか?)

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