わかりやすいはわかりにくい?

著者:鷲田清一

 前置き:

現代文で学ぶことは大きく分けて二つ。二項対立(論理構造)と、抽象的思考と具体例の識別です。この技術を使って文章を要約できさえすれば、人生に必要な国語力は十分です。

 現代文では今と昔、日本と海外、一般論と筆者の持論というように、対比軸をもって物事を論じています。これを二項対立といい、何と何を対比しているのか、筆者の意見の根拠は何か、論理構造を考えることが大事です。

 また、筆者は抽象的な持論を持っており、その持論を具体例で補強しています。筆者は結局何が言いたいのか。抽象的思考と具体例を識別できるようになりましょう。

 さて、今回の文章は、筆者の主張と具体例の識別がわかりやすく、オーソドックスな評論です。内容を理解した上で、自分なりの意見を考えることもおすすめです。

要約文:

第一段落: 単純な物言いがあふれていることを筆者は「思考に肺活量が足りない」と表現する。思考の肺活量とは、わからないことをわからないままつきあう思考の体力であり、あるいは葛藤の中でも思考し続けられる耐性と言ってもよい。

  対比: 筆者は戦後生まれの第一の世代である。筆者の受験方針は「要領よく、短時間で問題をとくのが良い」とされていた。しかし、現実でそんなやり方を適用するとまずいことになる。わからない範囲を自分の知っている知識で無理やり解釈し、ゆがめてしまうのだ。

やはり「わからないものはわからないまま対処する」思考訓練が大切なのだ。


第二段落: 「わからないものをわからないまま解釈する」を政治、ケア、アートという三つの異なる場面を具体例にして考えたい。

 具体例: 政治→政策一つをとっても、どれを選べば事態がどう動くか、全くわからないまま判断が求められる。外交政策でも関係国の思惑などをわからないまま判断すべきだし、国内政策でも景気刺激や構造改革など、どちらかが成功したらどちらかが失敗するといった政策を実行し、判断しなければならない。

ケア: ある患者が非常に深刻な病に陥ってしまった。ここでどういう治療をとるのか医療関係者、患者の家族、患者自身で全く考えが異なるだろう。正解がないまま、医療関係者は治療方針を決めなければならない。

アート: 制作中の画家は、自分が表現しようと思っているものが何か、自分でもよくわかっていない。わからないまま自分の表現を追い求めるしかない。


第三段落: このように、大事なことは、わかりやすい言葉や説明を求めるのではなく、わからないまま、正解がないまま対処することなのだ。わからない時に結論を急がず、二者択一や二項対立(対比)に晒され続け、考えに考えてやがてその外にでること。これが思考である。


どんな話か理解できたでしょうか?

「すぐに正解を求めるな。自分で考える力を身につけよ。」全くもっておっしゃる通りで、この論から言えば「既存の週3コマ以上かかる現代文の説明を5分に短縮しよう」という当サイトの理念は大批判を受けてもおかしくありません。

しかし、「わからないことをわからないまま考えて決断を出す」「わからないことに耐えて考え続ける」。これには相当の学力を求められており、高校生一律に求めるのは酷ではないでしょうか。「僕、人生で一冊も本を読みきったことがないんです」という層を教えて、そう思うようになりました。

筆者のいうことは確かに理想。でも最初はわかりやすい言葉や説明で考える訓練をする。その積み上げの先に筆者の理想があるのではないかと考えています。

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