わからないからおもしろい
著者:木内昇
前置き:
現代文で学ぶことは大きく分けて二つ。二項対立(論理構造)と、抽象的思考と具体例の識別です。この技術を使って文章を要約できさえすれば、人生に必要な国語力は十分です。
現代文では今と昔、日本と海外、一般論と筆者の持論というように、対比軸をもって物事を論じています。これを二項対立といい、何と何を対比しているのか、筆者の意見の根拠は何か、論理構造を考えることが大事です。
また、筆者は抽象的な持論を持っており、その持論を具体例で補強しています。筆者は結局何が言いたいのか。抽象的思考と具体例を識別できるようになりましょう。
わからないからこそ面白い。逆説的です。普通は「わかるから、面白い」なのでは? このように、一般論と筆者の意見を対比するタイプの話です。
要約文:
第一段落: 小説は読み手にとってわかりやすい内容のほうがいいのか? それとも難しくとも筆者の書きたいものが書かれている方がよいのか?
具体例: 筆者は小説家としてトークショーに出た時、参列者の青年から次のような発言を受けた。
「僕はふだん小説を全く読まないので、この本を読んだけど難しかったです。次に書く小説は、もっと簡単でわかりやすい内容にしてください。」
🐿の補足: 表現者としては永遠のテーマですね。筆者が述べるように、自分が書きたいものだけを書くのも大事ですが、それだけだと受け手に理解されません。筆者はこの時胡蝶の舞の事例を出し、話が面白くなるのは受け手次第だとお茶を濁したと述べています。(胡蝶の舞とは、切り紙で作った長が扇子に煽られ飛んでいる。たったそれだけなのにお客はそこに自分で物語を想像して涙することまである。つまり、受け手の教養しだいでどんな話でも面白くなる、という事例です。)
第二段落: 上を受けて、筆者としての感想は次の3つである。
1、(青年の)あなたの無教養が問題だ。日頃からもっと小説を読んでほしい。
2、自分が書きたいように書いた結果、たまたまあなたには理解できなかったということ。誰も悪くない。しょうがない。
3、自分の努力不足だった。次はもっと工夫して多くの人に届くような作品を書きたい。
青年からコメントを受けた瞬間は1を考えた。だが、仕事人として2と3を揺れ動くのが基本である。つまり、この問いに対して明確な答えは出ないのだ。
🐿の補足: ……ですよね。
第三段落: そもそも「道」を極める最中はわからないことの方が多い。
対比: あらゆることに言えることだが、基本的にはすぐ理解し、すぐに結果を出したい。失敗は避けたいし、不要な苦労も傷つくのもいや。平坦な近道を探したい。しかし、現実はそんな王道など存在しないのだ。コツコツ地味な作業の中にこそ道を極めるのに必要な鍵がある。
🐿の補足: これこそ思考の体力ですね。わからないことに対して我慢ができるか。似たようなことを鷲田清一氏が書いてるので、ついでにこちらもどうぞ。
第四段落: わからないことに関われることは至高の贅沢であり、幸せなのではないか?
対比: すぐにわかることは薄っぺらい。すぐにわからないからこそ考え、想像し、工夫し、成長する。それは奥行きのある世界に身を置けている証拠だし、そのような世界にいることを幸せに思う。
🐿の補足: 冒頭で述べた「筆者が書きたいもの VS 世の中の需要」どちらをとるべき? という問題に対して、筆者が出した答えです。つまり、「わからない」です。だけどわからないからこそ、そこに自分の工夫や成長があり、やりがいがある。それが楽しいと筆者は述べています。
確かに簡単に得られることなんて、何も価値がないと思うのが人間です。答えを教えてもらうよりも、自分で悩み、工夫をしながら自力で掴みたい。たとえそこで失敗しても。
楽したいのも人間、苦労したいのも人間。めんどくさいけれど、そういうものなのかもしれません。
どんな話か理解できたでしょうか?
仕事人の日々とはどのような日々か