書物の近代

著者:紅野謙介

 前置き:

現代文で学ぶことは大きく分けて二つ。二項対立(論理構造)と、抽象的思考と具体例の識別です。

 現代文では今と昔、日本と海外、一般論と筆者の持論というように、対比軸をもって物事を論じています。これを二項対立といい、何と何を対比しているのか、筆者の意見の根拠は何か、論理構造を考えることが大事です。

 また、筆者は抽象的な持論を持っており、その持論を具体例で補強しています。筆者は結局何が言いたいのか。抽象的思考と具体例を識別できるようになりましょう。

 さて、今回の「書物の近代」では筆者の持論の言い回しが少々ややこしく、何を言いたいのかわかりづらい文章となっております。段落ごとに丁寧に要約していきましょう。

要約文

第一段落: 書物の記憶とは内容だけではなく、書物の「かたち」もセットで張り付いている。

  対比: 物語を読んで内容に一喜一憂する記憶もあれば、本の装丁や飛び出す絵本など、「かたち」の記憶も存在する。

🐿の補足: 1970年ごろまでの教養主義の時代では、辞書シリーズを一通り買って、社長室や自宅の書斎の目立つところに並べる。それが当時の憧れであったと年配の教授に聞いたことがあります。分厚い辞書が何十冊と並べられた本棚は、その見た目だけで知の象徴なりえたはずです。本に含まれる情報は内容だけではないのです。


第二段落: 読書活動とは、書いてある情報を五感を使ってなぞりながら、想像の世界で再現することである。

 具体例: 文字表記、文字の配列、紙面全体のレイアウト、口絵や挿絵、写真、装丁も読書を構成する重要な要素である。また、歴史的にも巻物から冊子へと媒体が変わったことも、人々の読書のやり方に大きな影響を与えてきた。

🐿の補足: 小説以外の媒体を考えると、漫画の音声表現が真っ先に浮かびます。ドアが開く「キィ」、エンジンが轟く「ゴオーーーー」、某海賊漫画の「どん!!!」という表現。小説でこういった音声を文学的に切り取る表現も、それはそれで美しいのですが、音を文字に、それから文字に合う絵で表すことで、より直感的に場面を再現し、臨場感あふれる世界を想像することを可能にしました。文章以外でも伝える表現は沢山あるのです。


第三段落: 同様に現在、情報化の波が私たちの読書活動、つまり感覚や思考や認識の形態を少しずつ影響を与えている。

 具体例: インターネットで情報収拾、電子メールでのやりとり、PCを使った原稿執筆、レイアウトや写真画像の加工修正。


第四段落: 紙と電子テキストが共存できる状況を作るべきだ。

 具体例: ホームページにみられる編集や加工、文字と図像の組み合わせを考えることも「書く」の一種であり、「読む」はその組み合わせで情報を得ることである。

🐿の補足: インターネットがでてきて早30年。ホームページが生まれ、ブログが生まれ、SNSや画像共有サイトなど、様々な表現手法が生まれました。ビジネスの場でも文章のみで説明するよりも、パワーポイントを使い、図表を使い、あらゆる「書物のかたち」に頼ります。「読み書き」の形態は恐ろしい勢いで変わりつつあるのです。


どんな話か理解できたでしょうか?

 昔、子供向けの新しい習い事「youtuber塾」について調べたことがあります。今や子供でもyoutuberになれ、トップyoutuberは億単位でお金を稼ぐ時代です。が、世間の「楽して稼ぐ」イメージなんてとんでもない。泥臭い世界で、やりきるには質量ともに相当な能力が必要です。(企画や脚本で内容を固める他にも、基本的なPCや映像機器の操作、画面構成から衣装や役者の表情の表現模索、字幕や音楽をいれて盛り上げたり、ネットで宣伝してブランディングするetc etc)。youtuber塾はyoutuberになる過程で必要となる技術を子供に教えて、新しい時代に必要なリテラシーを高めようという主旨でした。

 🐿も元国語教員として、「文章自身の美しさや内容で勝負できる」という神話を信じたい気持ちはあります。が、この情報社会ではどうしても多数の情報に埋もれてしまい、最初の「読まれる」というハードルが高いです。人々に読んでもらうには文章以外の力も必要だと実感する毎日です。

======ここから宣伝======

古典文法のアプリ作ってます。高校一年生が対象です。定期テスト対策にどうぞ。

Cheat 古典文法

書物の近代” に対して1件のコメントがあります。

  1. shimarisu より:

    授業案:
    他の文章を‪読み、筆者の意見のみに線を引き、要約せよ。

  2. shimarisu より:

    授業案:
    文字以外が持つ表現の効果について3つ以上具体例をみつけよ。
    文字のみと、選んだ表現が組み合わされることにより、どういった効果が生まれるかを考えること。媒体は漫画、音楽、アニメ、ドラマ、映画、ホームページ、チラシ、新聞、SNS、その他好きなものから選ぶこと。
    ただし具体例には図表や写真を用いてわかりやすくすること。パワポ推奨。

shimarisu にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)