地図の想像力
著者:若林幹夫
前置き:
現代文で学ぶことは大きく分けて二つ。二項対立(論理構造)と、抽象的思考と具体例の識別です。
現代文では今と昔、日本と海外、一般論と筆者の持論というように、対比軸をもって物事を論じています。これを二項対立といい、何と何を対比しているのか、筆者の意見の根拠は何か、論理構造を考えることが大事です。
また、筆者は抽象的な持論を持っており、その持論を具体例で補強しています。筆者は結局何が言いたいのか。抽象的思考と具体例を識別できるようになりましょう。
さて、今回の「地図の想像力」では定番の今と昔を対比しつつ、一派論とは異なる筆者独自の論を展開しています。筆者の論を支えるのはどんな根拠なのかを考えつつ読み取っていきましょう。
要約文
第一段落: 昔の地図を「科学的」な基準で未熟と見てしまうのはもったいない。
対比: 一般論としては今の地図の方が科学的にみて正しい、「よい」地図である。
具体例: 昔の地図として「T-O図」をあげている。ナイル川とドン川という二つの川で三つの大陸を隔てた、聖地エルサレムが世界の中心となった円形の大地を表す地図である。
🐿の補足: 確かに一般的に考えると、昔の「T-O図」は地図としては成り立ちません。しかしだからと言って、T-O図を未発達とみなすのは間違いだと筆者は主張しています。
第二段落: 地図とは世界そのものを表現するのではなく、「人間にとって意味のあるもの」を表したものである。
対比: 一般論としては「今の地図は昔のT-O図と比べて、科学的な測量と縮尺で「正確な世界」を表現したものだ。」という反論があるかもしれない。
具体例: 距離も標高も、人間が作った「数」にしたがって測定している。市町村や国境線も全て人間が作った勝手に作った基準であり、世界そのものを表してはいない。同じ「雪原」という世界を見ても、イヌイットの人々と普通の英語使用者とでは違う世界に見えるだろう。
🐿の補足: グーグルマップをひらけば山や川、自然の他に、お店や駅の名前など、人間にとって意味のあるものを表現しております。本当に世界そのものを表現しているのであれば、その辺の石や草花も全部載せるべきなのでは? 「たまたま」私たちと地図の描き手の思惑が合致しているから「今の地図が正しい」と勘違いしているにすぎないのです。
第三段落(まとめ): 地図とは読み手と描き手が共同して、世界を作り出す「生産の場」なのだ。
どんな話か理解できたでしょうか?
改めて地図を見ると、自分が何を大事にしているのかわかる気がします。🐿は外食が好きなので、地図を見るとまずおいしいお店と近くにある駅、その店の食べログ情報に注目してしまいます。その他の情報は無意識に無視しているんですね。昔のT-O図を描いた製作者にとっても、宗教と神だけが大事なもので、他のものは無視してもいいという感覚だったのかもしれないですね。そう言う意味で人は一人一人、違う地図を持っているのかもしれません。
授業案:
筆者が「T-O図」という昔の地図に価値を見出しているのはなぜか? 対比を用いつつ説明せよ。
授業案:
他の文章を読み、対比を使ってそれぞれの特徴をまとめ、要約せよ。
授業案:
あなたが独自に地図を作るなら、誰に向けてどんな地図を作るか?
商品化することを想定して企画書を書け。
(例: 自分と同じオタクに向けた、聖地巡礼用の観光マップ。
待機児童をかかえる母親向けの、保育園情報を網羅した保育園マップ)